しあわせがとびこんでくる





少女が一人 目の前に広がる綺麗なコバルトブルーの海を眺め 砂浜に座っている。

その日はいつもより少し暑かった。太陽が肌を焦がすように強く光を放っていた。音がするかと思うくらいに。 夏ではないので蝉の声は聞こえないが、冬が終わったと断言できる。その日はいつもより、暑かった。
たまたま、”それ”を見つけて立ち止まったのが平古場だった。ランニング中だった彼は汗を拭い、息を整えようとする。 その様子を訝しげに見やる仲間、知念に先に行けと告げ、彼は少女に近づいた。 目の前に広がる綺麗なコバルトブルーの海を眺めて砂浜に座っていた少女に、彼は声をかけた。それが二人の物語の始まり。

「いやー、ぬーそーいびーが?」
少女は答えない。彼の顔をじぃっと見つめた後、俯いてしまった。
「・・・・、エー、ぬーそーいびーがって」
隣に座って、平古場は続ける。
「もしかして、ウチナーンチュ、違うのか?」

体育座りをした少女が、俯いたまま頷く。その腕を見ると透きとおるように白く、日焼け止めの香りがしていた。








「―――ほんで、その永四郎ゅーんがワッターを集めよってね、今は朝もテニス、昼もテニス、夜もテニスの毎日さあ」

平古場は俯いたままの少女相手に何を問いかけることもなく、ひたすら自分のことを話続けていた。 沖縄のこと。家族のこと。友達のこと。学校のこと。自分の幼い頃にしたこと。今してること。 沈んでゆく夕日に気づいて、驚く。少女もいつの間にか、顔をあげていた。
長いマツゲ。

「あー、でも今日はサボってしまったからなー 永四郎と晴美ぃにどやされっかもなー」

まあ、なんくるないさあーと平古場は笑った。海にオレンジが広がっている。 汗が乾ききっていない湿った服を着ていたので、風が吹くと少し寒く感じた。―――昼間はあんなに暑かったのに。

「・・・・、」
「?どうした??」
「あなた、名前は?」
「あンれ、ワー、言ってなかったか?凛。平古場凛。凛って呼んで!・・・ナーは?」
随分話をしてからの自己紹介だ。
「。・・・今日は、ありがとう。もう帰らなくちゃ。」
彼女は立ち上がり、走る。肌が白くて運動はできなさそうだと思ったのに、と平古場は思った。速かった。
「あ、――― 待って!」
そう声をかけたけど、
「またね」

また、という事は再び会えるのだろうかとそう考えているうちに彼女の姿はもう見えなくなっていた。








 ∵∴∵∴ 







「それで、練習さ抜けてたの。平古場クン。」
「ドラマにも負けない、恋物語さあ」
「―――、ゴーヤー食わすよ」
「ゴーヤーは勘弁!」
「じゃあ今から基礎メニュー10セットね」

テニスに関して真面目な平古場が練習を抜け、帰ってくるなりレギュラーに内容のわからない言葉を連発した。 また会えるか!?とか 喋った、喋った、とか。まるでクララが立ったと言うハイジのように嬉しそうに、感極まって。 詳しく木手と知念で事情を聞くと、海辺にいた少女に恋をしたという。 (冷静 かつ 平古場が練習にいないと最も困る二人だ。適任!)
木手は始終腕組んで眉間に皺を寄せてた。知念は額に手を当てて大きくため息をついていた。

「ほーいほーいほい」

その声の調子は全く反省しているようには聞こえなかった。
弁解もまるで冗談を言っているかのような口調で言うので(まあ内容が内容でじゃし)眼鏡を中指でくいっとあげた後、木手は言い放つ。

「やっぱり、30セットね」

さすがに平古場も 基礎30には うなだれとった。

オレは。
ワーは、その話を耳にして勿論驚いたけど、嬉しくなったな。
平古場という男があんなのだから、その恋の話も冗談か真剣かわからないけど、ワーは嬉しくなった。 長い付き合いではあるけど平古場からそんな話―――恋という単語でさえ聞いたことがなかったから。 きっと、本当に平古場は恋をしたんだろうなって思った。

大げさに言うが、本能で感じとってたって感じ?

これから何か起こるぞーって。





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甲斐クンわからなすぎる!
070226mon