しあわせがとびこんでくる
少年が一人 頭の上に広がる美しいスカイブルーを眺め 砂浜に座っている。
少女に出会った日から6日。平古場は毎日砂浜に赴いたというのに、彼女は現れなかった。
翌日・翌々日は同じ時間に同じ場所へ向かい、(部活をほったらかして)待っていた。
しかしさすがに毎日部活をせずにもいられないので3日目からはランニングの時に少女がいなかったら部活に集中することにしていた。
ランニングがメニューになくても毎日欠かさず、同じ時間同じ場所を通れるように一人で走った。
それなのに彼の願いも虚しく、哀れ、あれからもう6日も経った。
今日は日曜日で部活もオフ。比嘉中の、とくにレギュラーは仲が良いので休みも関係なく会い、いつもと同じくテニスをすることが普通になっていたが、
平古場は気分が乗らず、パス。木手も試合や大会に向けての対策をするためパス。そんならオレも、と甲斐がパスすれば田仁志だって知念だってパス。
――――久しぶりにテニスなしの一日という訳だ。
片手を半パンのポケットにつっこみ、無気力に歩く。今日も平古場は同じ時間同じ場所に向かった。
「やっぱりかぁ。いーくる来ていいと思うんだけんどなあ」
平古場は砂浜に座り、そして青い空を見上げる。雲がぽつん、ぽつんとあるだけの空。今日も快晴だ。
平古場にはひとつ、考えがあった。もしかしてもう”家”に帰ったのではないのかという考え。
少女はウチナーンチュではない、と言っていた。―――正確には頷いたのだが。
もしかしたらもうこの島にはいなくて、自分の知らない日本の何処かの”家”に帰ってしまったのではないか。
平古場は少女のことを知らない。名前だけ聞いたけれど、それは何も意味をもたなかった。
「・・・。」
空に向かって呟く。彼女の言った『またね』という言葉が平古場の頭の中でリピートされていた。
「ぬーが、・・・・ぬーが ドラマにも負けない恋だあー もう6日も経っちょん・・・ちょー待ち・・・ワーは愚か者ばー?」
冗談(まじり)とはいえ、木手と知念に言った自分の言葉を思い出して自嘲する。
当然こんなことは初めてだし、こんな気持ちも初めてだ。とにかく会いたいと思った。
何も知らないけどもう一度。もう一度だけでいいから会わせてくれと願う。会いたい会いたい会いたい。
カミサマ。
カミサマ、多分これは恋なんです。よくわかってないけどそうなんです。
会ったところでワーはきっと告白するでもないけど、にもう一度、会いたいんです。
途端。
途端、平古場の携帯電話が鳴る。自分の世界――正直恥ずかしい――に浸っていた所だったので平古場はびくっと、体中で反応した。
タイミング良く・・・・悪く、平古場を呼び出しているのは甲斐だった。
『・・・・・平古場?』
「〜〜〜〜ゆーじろー?・・・ぬーだあ!?ぬーの用ばー??」
『ぬーでそんな怒ってる?』
「怒ってない!」
『・・・そお?ああ、あの、ヤー、どうせまた海行ってンだろ?会えたん??』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『だろう?チューもきっと来んだろ?』
「そんなんわからんじゃろ」
『ヤーがそう信じたいってのはよくわかった。』
「ああ?馬鹿にしとるんばー?」
『違う違う。・・・・今、知念と田仁志とおるんじゃけど、やっぱワッターはテニスせんと落ち着かんて言うて今から学校行くんだ。
永四郎も後から来るって!・・・・凛も来んばー?て、お誘い。』
言葉に詰まった。
『凛?』
「―――裕次郎、」
『どしたん?』
「スゴイぞ、ヤーの予想は大ハズレ!」
『は?』
「今日は行けたら行く。じゃーなッ!」
カミサマはいる。カミサマはいる。
カミサマは、いる!
平古場は心で繰り返した。少女が、彼の前に現れたのである。
「こんにちわ、平古場クン。」
彼のテンションのパラメーターは最低から最高になった。
携帯を出して良いものか、一瞬迷いました。一瞬。
070226mon