あいつのことを想い続けてたって報われないって思っていたの
だからもう過去は振り返らずに もう過去に囚われずに、
T∀KE OFF
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「仁王!」
昼休みももうすぐ終わりそうだ。教室の黒板の上にかけたれた時計の秒針が「12」という数字の所にあと3回、いや2回来たら予鈴がなろうとしていた。昼休みの間ずっと点いてたストーブで温まった教室と、冷えた空気がその長さで更に冷たくなっていくような廊下の温度差。その温度の境目を超えたばかりの、険しい顔をしたが自分を呼び、近づいてきた理由を仁王雅治はわかっている。
「アンタ、また、」
「おぅ。...あの子とは、さよならじゃー。」
ついさっきの出来事がこんなに短い時間でこんな遠くの教室まで伝わるんとは、立海の情報網は あなどれんの〜
は仁王のまるで他人事を話しているかのようなその態度に先程より更に眉を寄せた。
彼が女子と付き合って別れるのは、こっちだってもう慣れた ―――― けれども。
におう は だれのものにもならない
あたしのもの にも ならない
「今回の理由は?」
「...知らん」
「独占欲が強すぎたとか、仁王が約束すっぽかしたとか本気になれたなかったとか、ないの?」
「...知らん」
「可愛かったのに、2年生の学イチでしょ?もったいないなぁ...」
いいたいこと は いえないまま なのに
いいたくないこと ばっかり いっちゃう
「なぁ 、次の授業はひなたぼっこ。―――何しとる。早く来んしゃい。」
ほんとうは あたしも おんなのことして みてほしいの
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仁王雅治が空を見上げているのとは対照的には地を見下ろしていた。
「教室のど真ン中で、別れた理由を堂々と話す程デリカシーのない男にはなるつもりはないんじゃ」
そう言うとは、すぐに謝った。―――震えた声で。仁王は言い方がきつかった、と後悔する。
「今回はふられた」
「...うん」
「でも今までも同じよう...なこと、何回もあったし」
「...うん」
ちがう いいたいのは そんなことじゃないのに
「ふられた理由はな、」
私はあなたにすぐ気づくのに あなたは私に気づかない
いつも違う所ばっかり見てるでしょ?
ああ、ついに言われてしまったと思った。
今まで付き合った女子はひとりも、そんなこと言わなかった。自分の彼氏の、―――別れた男の恋を応援するなんて。そこまでしてくれる女子はこの3年の間に、その1人だけ。
「理由は、俺の気持ちが あの子には届かないからじゃ」
おくろうと おれが しないから
おれが みているのは ちがうひとだから
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放課後に図書室で読書または自主勉強をすることは、いつの間にかの日課となっていた。
図書室から、テニスコートが見えるから。テニス部の、仁王雅治が見えるから。本当は本にも教科書にも、用はないのに図書室へ通った。
もうやめよう きょうからは いかない
彼の隣にはいつも可愛い娘がいた。来る者を拒まなければ、去る者も追わなかった。きっと仁王が本気で好きと思って付き合った子なんていなかったのだ。
今までは。
は、その言葉を聞いた時、『潮時だな』と思った。仁王の気持ちは、2年のあの子に届けようとして、返ってきちゃったんだな、と思った。今回は”いつも”とは違ったんだ、と。それと同じものを自分が彼に送ったとして、どうなるだろう?私達の関係はどうなるの?
崩れてしまう。それが恐ろしかった。
「、今日も図書室に行くんか?」
「...え?」
行かない、と決めた瞬間にそんな風に聞かれるなんて。
「いつも見とるじゃろ、テニス部」
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相手に好きな人がいるのに自分の想いを伝えるなんて馬鹿馬鹿しくてできないと思いつつも、仁王雅治は彼女と会うといつも告白したくてたまらなくなる。
今だってそうだ。お前が好きだと言ってしまいたい。は自分に近くて、でも遠いと心で嘆く。この嘆きは一体、何十回目だろうか。もしかしたら何百回、かもしれない。
いったい だれを みつめてるんじゃ
おまえさん は だれのために なくんじゃ
彼女以外の女子と付き合うのは、正直、自分は身をひいて彼女の幸せを願う、ドラマの準主役ポジションを狙ってだった。
...なんて。何もしてないのに、当たって砕けて―――当たってみてもいないというのに、そんなこと言えたもんじゃないなと自嘲する。
だめじゃの やっぱり おれ は おまえ が すきみたいじゃ
仁王の瞳は今、空ではなく彼女を映していた。まっすぐに。
「ブン太か?幸村か?」
「えっ ええと...」
「それともは...も、年下が好きなんか?赤也か?」
「違う!切原君は...そりゃぁかっこいいとは思うけど...」
「まさか、ジャッカルだなんてオチ?」
「......ないよ。ないない。それはない。」
おれのきもち を ずっと おまえさん に とどけたいんじゃよ つたえたいんじゃよ
もう そろそろ がまんも げんかいじゃ
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「誰を、見とるん?」
におうには におうにだけは きかれたくなかったな
「誰って.....」
もういってしまう だめじゃ おさえきれん
「俺は、一回、おまえさんがあそこで泣いてるのをみた」
さいあくだ さいあくだ なんで におうのはなし しにきたのに どうして
「ゃ、やだなぁ...否定しきれないや(仁王と女の子が喋ってる所見ただけで泣いちゃったなんて絶対言えない...)」
おまえさんはだれのためになくんじゃ
「誰かを見てることも、否定せんかったな。...おまえさんは誰をみとるんじゃ?」
だめだ ないちゃう ここでないたら におう こまるのに
「 俺はおまえさんが好きじゃ ずっと前から」
「―――― え?」
「駄目じゃ、やっぱり言ってしまった。」
「―――― !?」
「...訳わからんて顔じゃな。ずっと好きじゃったんよ。おまえさんがテニス部の誰か――あ、もしかして柳生か?そしたらまぁ俺としてはショックも更に大きくなる訳なんやけど、―――見とって、好きなんはわかってるし、こんなん言われても、おまえさんは困るかもしれへんけど...」
「ちょ、ちょっとストップ!」
「.......... ミニストップ?(何で止めるんじゃ)」
「(こんなときに何言うんだこいつ)誰が、誰を、好きって言った?」
「え?おまえさんが柳生??まさかマジで?あいつ好きな人おるぜよ、それに」
「じゃなくて、仁王が、誰をって言った?」
「は?話聞いてた?俺、今、おまえさんに告っとるんじゃよ?」
「つまり イコール」
「... おまえさんを好ぃとぉよ」
「は、ははっ あははははは」
「何がおかしい(ショックのあまり壊れたか)(壊れられたこっちがショックじゃ)」
「あたしが見てたのも、仁王なんだけど」
(柳生のフェイクの仁王のつもり) 070429sun