「すみません」
学年付の教師には申し訳ないように言った。
「ゆっくり休んで、その後もうひと頑張りすればいいから」
鍵は職員室に返しにてくれと告げると、部屋を去ってゆく。足音が遠くなっていく。つけたばかりのストーブは、普段使われていない部屋を暖めるには小さい。ソファーだってクッションだってひんやりとして冷たい。
―――― うまくいった。
横になりながら携帯を確認。メールも電話もきていない。・・・そりゃそうだ、今は授業中。きっとクソ真面目に英語やら数学やら――勉学に励んでいるんだろう。
新館1階・教育相談室の窓から本館を見つめると、自分の担任が足早に3年の教室の方へ向かっているのが見えた。
普段"優等生"をやっているはいとも簡単に授業をさぼることができた。
2限が終わって、3限が始まるまでの休み時間。その時間が終わるまでには職員室に行って「少しでもいいから休みたい」と担任に申し出た。 保健医不在で保健室がしまっていることは友人から聞いていたが、はむしろそれを狙った。 授業を一時間欠席にする程でもないことは自分が一番わかっているが、次の時間は大嫌いな教師の授業で、大嫌いな科目で。
・・・激しい頭痛は嘘じゃない。
誰もいない所に行って眠りたいと思ったのは自分だというのに、なかなか眠れない。
頭痛のせいだ。きっと、この頭痛のせいだ。
担任は受験で気が参ってしまっているのだろう、と言った。 おそらく彼はが朝も昼も夜も勉強してると考えていたのだろう。 は外部の進学を希望している。今の時期、それはもう吐き気がする程頑張らなければならない筈で―――でも実際は、朝も昼も夜も勉強なんてしていない。
確かに頭痛は受験のことも含めて自分の将来のことにあるのはわかっていたが。
窓の外を見やって、寒い筈だが日が差してきらきらと暖かそうだと思った。
このままソファーに溶けるか、その光になってしまいたいと気違いじみたことを思った。
こんなことを考えている自分は弱く、馬鹿で、根性がないと。
「こんな所でサボリとは、いい御身分じゃねーか」
扉が開く音など聞こえなかったのに、跡部景吾はそこにいた。
「・・・・、そっちこそ、どうしてここにいるの」
授業中なのに。
「ハッ 俺は休みたい時は自由に休めンだよ。学力も経済力もあるからな。」
どうして。
跡部景吾。生徒会長でテニス部の部長。金持ち。
何でもできて、女好きで。かっこよくて憧れで。
同じ学年の人だと思えなくて。でも好きで。
どうしてここにいるの
「お前が、」
教室を出るとき”彼”と目が合ったことを思い出した。
「お前が婚約したと聞いた」
「うん、相手は同じクラスの」
「知ってる。ぱっとしねー奴だな。」
「跡部君を基準にしたら誰だってぱっとしないんじゃない?」
「・・・ああ」
跡部ファンならこんなシチュエーション、願ったり叶ったりで心臓がバクバクもんの筈。
自分も例外じゃないはずなのに頭痛がひどくなっていくのがわかるだけで、
「俺にしとけよ」
自分にだって婚約者がいるのに。
本気なのかわからない跡部とぱっとしない”彼”を天秤にかけるさせるなんて。
もう、諦めていたとゆうのに。
「俺様に、しとけ ・・・」
頭痛がひどくなっていくのが わかるだけで。
イタリア語 10 TITLE #02 irrealizzabile [叶わぬ恋]
070127sat