カウント スリー! ツー! ワン! Zzz...



「へぇ〜〜 彼氏いないんだ?じゃぁオレの彼女になればいいよ」
何でも無いように装ってたけど その一言を言った時、 オレ・芥川慈郎はカナリ緊張してたと思う。
もしかしたら『へぇ〜〜』は『へ、へぇ〜〜』って声がおかしくなっちゃってたかも!緊張のあまり。

今日は天気もいいC ぽかぽかだC いつになく昼寝日和〜 とかって
試合の前に(いつもみたく)木陰で寝てて良かった。そうじゃなかったら、”チャンス”を逃していた。

「はい...そうです」
「...オレ、芥川慈郎。迷ったの?」
「ぇと、...です。恥ずかしながら迷いました。」
「じゃ、案内しましょう。テニスコートは、こっち。」

オレがすかさずゲットした”チャンス”。それはまさにこの出会い。
いくら広いとはいえ、氷帝の中の配置はそんなに複雑じゃなかったはず。
なのに○×高校の制服を着た、その娘は迷ったと言った。オレはもう、これは運命だ!と思った。
喋ったことこそないけれど、ずっと、オレはちゃんのことが好きだった。
ってか名前、っていうんだな!感動!
オレはその瞬間までその娘の名前さえ、知らなかった。

「あの、あくたがわ君は、何であたしがテニス部見に来たってわかったの?あ、わかったんですか?」

歩きながら、次に何て言えばいいのかわからなくて、せっかくのチャンスなのに何でって歯痒くて、
オレ、へたれだなって思ってたら彼女が話を切り出してくれた。
雰囲気的にきまずかったのか、ただ単に気になったのか、どっちかだろうな。できれば前者でなければ嬉しい。でも、その可能性の方が高い気がする。
あくたがわ君って、ちゃんは絶対にひらがなで呼んだと思う。『芥川』以外にあるの?こっちが聞きたいくらいだ。でもオレは彼女のそんなところも可愛いなぁと思ってしまう。恋って盲目になるものなのだ。

わかったの、と言って わかったんですか?に言い直したちゃんの台詞にオレは『いいですよ、敬語なんて』とは言わなかった。
それは何だか自分から、彼女は高校生で、オレは中学生って認めてしまってまた距離が長くなってしまうと思ったから。考えすぎかな。 オレがちゃんにタメ語を意識せず使って、自然にちゃんも敬語を使わなくなる日が来て欲しい。
オレはもっともっと君の事を知りたいんだ。

テニスコートはだんだん近づいている。もう見えてるしな。オレはこのまま、道案内をしただけの男(しかも中学生のガキ)で終わりたくないと思った。 せっかく出会ったんだ。もっともっとちゃんの事、知りたいんだ。
そんな風に考えていたら怖い顔になってしまっていたらしい。ちゃんは、オレのことを見て、小さく『どうしよう』と呟いた。オレは聞き逃さなかった。絶対呟いた。
そんなに見つめられたら照れちゃう!なんて言ってる場合ではない。オレはこの印象をなんとかして、かつ、チャンスをものにしないといけないと思った。...でもどうすればいいかわからない。
オレはライフカードのCMのように選択肢のカードが欲しい!と心の中で叫んだ。



「あ!そうそう!オレのことは、ジローでいいからッ なッ...もうオレ達カレカノだし?」



で、咄嗟に思い浮かんだのがコレだった。かなり自然にオレはちゃんのことを呼び捨てにした。...できた。ってオレ馬鹿じゃん!自爆じゃん!何調子にノっちゃってんの! すっげー軽い男みたいじゃん!馴れ馴れしすぎるよ!チャラ男と思われちゃうじゃん!軽い冗談と受け止めてくれチャン!
....って思えば、第1声からオレ、くどく気満々ジャン!何、じゃぁオレの彼女になればいいよって!
(アレはかなり緊張してたけど、かなり考えなしに言った台詞だった)(最悪だ)

「え、あの、じろー君?」
「ん〜?な〜に〜?」

オレは自分のしでかした事の重大さ(やべぇ!せっかくのチャンスが!)に、自己嫌悪 ...しそうだったけど、ちゃん―――じゃない、が初めてオレの名前を、名前を言ってくれたことに感動した!
本当は感動してる場合じゃないんだけど。どうする、どうすんの!?オレ!!




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結局。
の友達(確かトモちゃん?あれユウちゃん?どっち?)がをタイミング良く見つけたから あの時は助かった。なんとかなった。のお友達グッジョブ!まじ感謝!...けど、何だかもやもや。不完全燃焼?みたいなそんな感じ。
もしあの時 の友達(トモちゃんの方だ!)が来なかったらは何て言ってたの?
やっぱ嫌だった?オレが彼氏じゃやっぱ嫌?
こんなガキじゃ、だめ?

そんなグルグルもやもやした気持ちも、彼女がオレのことを『じろー君』と呼ぶだけで、言うだけで少しマシになった。

オレがテニス部なことに驚いて (そういや言ってなかった!)
あとべやオシタリと喋って (2人とも馴れ馴れしい!)
彼女と友達2人は楽しそうに笑った。

何かおもしろくない。オレはちっとも笑えない。そして眠い。でもせっかくの機会なんだ、の言葉を聞き逃さないように、しないと。だって、すごく、気になる。
君が何を考えてるのかとか君が何を好きなのかとか、君が誰を好きなのかとか。

「...めずらしいこともあるもんだな」
あとべが腕を組んで(ホント何してても偉そうな奴!)言う。

「ジローが女に道案内か...これから雨でも降るンじゃねぇの?」
失礼な奴!の前で、何を言う!
オレは女の子(特に)が困ってたら助けるヒーローだC。親切な紳士だC。

「本間なァ。何かやったん?お嬢さん。...飴とか?」

がオレの方をみる。やべ、今、超眠いからすごく格好悪い顔してそうだオレ。
ねぇ、オレはキミのためなら何でもするよ。無償でするよ。うそ、やっぱり御褒美は欲しい。
飴なんかいらないけど。

オレはが欲しいな。

何 言ってンだろう。まだ知り合ったばかりなのに。やっと出会ったばかりなのに。
はオレのことを全然知らない(名前と学校と部活くらいだけじゃん!)し、
オレだって全然のこと、知らない。名前と、学校と...何知ってる?

すごくが遠くて、オレはすっごく痛くなった。こころが。
でもせっかくが氷帝まで来たんだから、頑張って試合しようと思った。
今日は練習試合だから正レギュラーはあんまり出ないんだけど。オレ、今日はずっと起きておく。

少しでも多く、貴重なとの空間を楽しんでやる。かっこいいとこみせてやる。
それで、君の頭にオレがちょっとでも残ればいいなと思った。

(おはなしはつづく)





070426thu